本・映画の紹介

 福山市のクシノテラスで企画され、今年3月から展示された死刑囚の作品を中心に編まれた作品集。展覧会では大道寺幸子・赤堀政夫基金の応募作を中心に、クシノテラス独自に集めた作品も含めて独特な空間を作っていた。
 椹木野衣、田口ランディの論考も掲載。カタログとして少部数発行されたものなので、必要な方は買い逃さぬように。
〔クシノテラス刊、A4判、オールカラー44頁。税込1200円+送料200円。申込みはhttp://kushiterra.base.ec/items/3440347新宿模索舍でも扱っている〕

大学時代から、死刑制度に関心があったという筆者だけあって、あらゆる角度から取材・インタビューをして、秘密のベールに覆われている「日本の死刑制度」を可視化している。裁判員制度になり、誰もが死刑相当事件にかかわる可能性がある今日、多くの人に読んで、知って、そして考えてほしい1冊だ。表紙のデザインのせいか「死刑に直面する佐 藤大介」とも読めるのが笑えないような……まずは手に取ってみていただきたい。
〔岩波書店、 2600円+税〕

NHKで福岡発地域ドラマとして放映された同名作品の原作。帯に「田舎に引っ越してきた加奈子は、森の中でおハルさんという笑顔の素敵なおばあさんと出会う。深い森がはぐくんだ命の記憶を、少女のまなざしで瑞々しく描いた暖かな物語」とあるように、同窓会で小学生の時1年住んだ福岡県糸島に帰り少女時代を思い返す物語だ。テレビで樹木希林が演じたおハルさんは、福岡拘置所の死刑囚たちを慰問し「死刑囚の母」と呼ばれた白石ハルさんがモデルだという。『異空間の俳句たち』所載の死刑囚の句も効果的に引用されていて、青少年読者が多いであろう作品にきちんと死刑問題への手がかりが埋め込まれていて嬉しい。
〔ポプラ社、1500円+税。2014年10月刊〕

「いま語らずにはいられない」メディアをめぐる対談だが、全体の半分以上が死刑やオウム事件、司法をめぐる話題だ。死刑の諸問題満載で、ぜひ読んでおきたい1冊である。
〔現代書館、1700円+税〕

著者と交流のあった宮崎勤、小林薫、宅間守、金川真大、林眞須美さんたちを取材した2008年刊行のちくま新書に大幅加筆。〔ちくま文庫、900円+税〕

2014年12月に亡くなった鎌田克己さんが兄・鎌田俊彦さんの交流誌『そうぼう』に書いた文章をまとめたもの。服役していた新潟刑務所での連続獄死事件を契機に獄中者処遇問題や死刑廃止に心を砕いた彼の記憶のために、ぜひ書架に置きたい1冊だ。〔明月堂、1800円+税〕

『世界』2016年3月号

2016年8月12日

 特集2「日本にはなぜ死刑がありつづけるのか」堀川惠子による千葉景子インタビュー、デヴィッド・ジンソン、指宿信、佐藤舞、田口真義、多和田葉子ら。〔850円+税〕

1888年に初版が刊行された涙香の翻案探偵小説。「誤認逮捕と誤判への警鐘を鳴らし、人権の尊さを訴えた最初の死刑廃止小説」と帯にあるように、本書を読み進めると最後に置かれた「萬國死刑廢止協會」の挿画に死刑廃止論者は驚くだろう。130年も前に涙香は原作を超えてこう主張したのだ。
「世に裁判ほど誤りの多き者はなし。誤りと知らずして無罪の人を死刑に処するもまた多し。一たび死刑に処したる後は、死人に口なし。これを知るによしなし。これを知るは再び命を償う道なし。余は足下の如き義に勇む人々が、一日も早く万国死刑廃止協会を設けん事を望むなり。」本誌読者、必読の一冊である。
〔インパクト出版会、 2300円+税〕

『愛に疎まれて—〈加藤智大の内心奥深くに渦巻く悔恨の念を感じ取る〉視座』芹沢俊介著
加藤智大の4冊の手記を素材に、何故に死刑が予測されるような事件を犯すに至ったかを、彼の養育過程に探った論考。「孤独だと無差別で殺す」という加藤の命題を解くことは「このような出来事を未然に防止するための基本的な手だてになるはずだ」と著者は言う。
〔批評社、1700円+税〕